大判例

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名古屋高等裁判所 昭和32年(う)432号 判決

原判決認定の事実によれば「被告人は法定の除外事由がないのに昭和三十一年九月三日午前十時五十五分頃軽二輪自動車を運転して桑名市中央町地内三重交通株式会社北勢線(電車線)踏切を通過しようとする際、安全かどうかを確認するため、一時停車しなかったものである」というにあり、原判決挙示の各証拠によると右事実を優に認定できる。

所論は右一時停車しなかつた理由について下記のごとく主張するが、これに対し次のとおり判断する。

(一) 所論は、被告人は本件踏切を通過しようとする際踏切に設置された遮断機が降りておらず、又警報機が電車の進行を報知しておらなかった。そこで被告人は更に徐行すると共に左右を注視し、もつて安全であることを確認したので一時停車しなかつたものであり、右は道路交通取締法第十五条但書にいわゆる「信号機の表示により安全であることを確認したとき」にあたる旨主張するので考察するに、原判決挙示の各証拠及び当審検証調書によると、本件踏切には本件以前から遮断機及び警報機が装置されてあり、その操作方法は、電車通過三十秒前に警報機は信号灯の赤色の電光を発し、ベルが鳴り始め、十秒後遮断機が降下し、電車通過に三十秒を要し、通過十秒後にベルが鳴り止み消灯し、遮断機が引き上げられることになっているところ、被告人が軽二輪自動車を運転して本件踏切を通過しようとする際、右遮断機が降下しておらず又警報機が電車の進行を報知しておらなかつたことが認められる。しかして右のように、遮断機の降下なく又警報機の報知もない上、更に被告人が左右を注視し、もつて安全であることを確認したものと考え一時停車しなかつたものとしても、右は前示道路交通取締法第十五条但書前段にいわゆる「信号機の表示により安全であることを確認したとき」にあたらないものといわなければならない。けだし、右同条但書前段にいわゆる「信号機の表示により安全であることを確認したとき」とは、信号機の表示が“進め”のような積極的な表示であつてその表示により安全であることを確認したときを指し、遮断機が降下しておらず又警報機が電車の進行を報知しておらなかつたというような消極的な事由の存するに止まるときは、その原因が遮断機、警報機の前段説明のごとき操作の開始前又は終了後の時刻にたまたま際会したことによる場合もあり得べく、或は遮断機、警報機の故障又は操作者の疾病その他の事由による場合もないとはいえない。ゆえに、前記のような遮断機の降下なく又警報機の報知もない場合には原則を厳守し安全かどうかを確認するため一時停車しなければならないものというべく、従つて所論のように、前記の場合、被告人は更に左右を注視し、もつて主観的に安全であることを確認したものと考え一時停車しなかつたものとしても、同条但書前段にいわゆる「信号機の表示により安全であることを確認したとき」にあたらないものと解するを相当とするからである。

(二) 所論は更に本件当時前車が一時停車することなく本件踏切を通過しており、右は前車が安全であることを確認したためであるので後方にあつて軽二輪自動車を運転していた被告人は、右前車の確認行為をもつて自己の確認行為としてそのまま踏切を通過し一時停車しなかつたものであり、右は同条但書にいわゆる「その他の事由により安全であることを確認したとき」にあたる旨主張するので、考察するに、

(1) 同条但書後段にいわゆる「その他の事由により安全であることを確認したとき」とは、同条但書前段所掲の例示に準ずるような確実性、安全性のある方法により安全であることを確認した場合をいうものと解する。例えば、鉄道又は軌道の踏切の左右が遮蔽物のない平野等で遠距離まで見透しの十分である個所であり、その左右の鉄道又は軌道を注視して安全であることを確認したときのごときその一事例であろう。本件についてこれを見るに、当審検証調書により認められるように、被告人が左右を注視したという地点(同検証調書添付見取図(イ)点)から望むと、本件踏切の左方附近には遮断機支柱、架線鉄柱及び職員便所があり、右方附近には建物があつて、客観的には左右の軌道の見透しの十分でない個所であるから、被告人が左右を注視して主観的に安全であることを確認したものと考えたとしても、同条但書後段にいわゆる「その他の事由により安全であることを確認したとき」にあたらないこと前段説明に照らし明らかである。

(2) 原判決挙示の各証拠及び当審検証調書によると、本件踏切附近は車馬の往来頻繁な個所であるが、所論のように、被告人は前車が安全であることを確認したので一時停車することなく踏切を通過したものと考え、前車の確認行為をもつて自己の確認行為として一時停車しなかつたものとしても、同条但書後段にいわゆる「その他の事由により安全であることを確認したとき」にあたらないものといわなければならない。けだし、前車が一時停車することなく踏切を通過したからといつて後車が漫然これを援用し安全であることを確認したものとして前車同様一時停車することなくそのまま踏切を通過するような確実性、安全性に乏しい確認方法によるがごときは、もとより交通の安全を図ることを目的とする道路交通取締法の許さないところであり、別言すれば、後車は前車に依存することなく、すべからくその自主性により同法の命ずるところに従い、安全であることを確認すべきものであるからである。

以上の点を総合すると、原判決が同一見解の下に原判示事実を認定し該当法条を適用の上、被告人に対し有罪の言渡をなしたのは正当で、原判決には所論のような法令適用の誤、理由不備及び理由にくいちがいの違法はない。各論旨は理由がない。

(裁判長判事 影山正雄 判事 石田恵一 判事 水島亀松)

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